「ヒーロー!?」
 いるの? この世にそんなひと?
 
 先輩は大きくうなずいて。
「そのひとは、全然オレのことなんか知らないのに、オレのためにたったひとりでいじめっ子たちに立ち向かって、そいつらのこと追いはらってくれたんだ。オレのこともやさしい言葉ではげましてくれて」
 さっきまで沈んでいた先輩の表情に、ふたたびいつものような明るさがもどる。
「うれしかったよ。大げさだけど、あのときはこの世に自分の味方なんてもう誰ひとりいないってあきらめてたんだ。だけど、どんなにまわりが真っ暗闇で、誰も自分になんて気がつかないって思ってても、きちんと自分のことを見つけてくれるひとはいるんだね。広い海にただよう船を見守る灯台みたいに」
 
 この世に自分の味方が誰ひとりいないってあきらめちゃう気持ち、すごくよく分かる。
 あたしも、露原先輩に出会うまではそうだったから。
「どんなひとだったんですか、そのヒーローって?」
 大人のひと? それとも中学生くらい?
「それがね、名前も言わずに立ち去っちゃったんだよ。なにもかも分からずじまいで」
 そうなの!?
「ずいぶんクールなひとですね」
 あたしの言葉がツボに入ったのか、なぜか先輩はプハッとふき出して。
「そうそう。ほんとうにクールなんだよ。自分が人助けをしたなんて、思ってないんじゃないのかな? まったく、カッコよすぎるよね」
 と、なつかしそうに語った。