四面楚歌(しめんそか)
 たすけがなく孤立すること。
 周囲がみな敵や反対者ばかりであること。
(岩波書店 広辞苑 第七版より)


「はぁ……」
 宿題の国語のドリルを開いたら、この四字熟語が飛びこんできた。
 思わずドリルを投げ捨てたい衝動にかられる。
 なんで?
 どうしてひとがヘコんでるときにかぎって、追い打ちかけるような言葉が出てくるわけ?

「知ってるー? 弓佳(ゆみか)って、ああ見えてすっごいウソつきなんだよ」
 ちがうって言ってるのに。

「分かるー。そんな気してたー」
 なんでよ。

珠莉(しゅり)が、内海(うつみ)くんのこと好きなの知ってるくせに、ひどくない?」
 ああもう。

「弓佳って、ガチで意地悪いよね」
「ほんっと、サイテー!」
 サイテーって言いたいのはこっちのほうなんだけど!

 中学一年生の冬。
 あたし、藤堂 弓佳(とうどう ゆみか)は、人生最大のピンチを迎えていた。
 他のひとからは、そんな大げさなって笑われるかもしれないけど。
 
 今のあたしはまさに四面楚歌状態。
 この世にあたしの味方なんてひとりもいない。
 どこにもあたしの居場所なんてないんだ。