「おにっ」
「……鬼って……なに」
「おにっ、にーっ」
“おにいちゃん”と、言っているのだろうか。
数歩すすんで、コテンッと、なにもないところで転ぶ。
けれどおれが座りこむ場所へ、自分の力で一生懸命なんとか立ち上がってまでも。
「っ…、シド兄ちゃん、セーカ姉ちゃん…っ、江架が……、江架が歩けるようになったよ…!歩けるように…っ、なったんだよ……!」
めいっぱい、抱きしめる。
嬉しいはずなのに、うれしいはずなのに、こんなにも悲しい。
喜ぶことのはずなのに、こんなにも涙が止まらない。
「……なんで笑ってるの、おまえ」
言葉とは裏腹に“それでいい”と思った。
なにも、なにも知らなくていいよ。
なにも見なくていいんだよ、お前は。
これはね、こわい悪夢でも見ているんだよ。
「………、」
おれの腕のなか、ちいさな命は安心したように笑って、そして眠る。
こんな場所で、こんな光景を前にして。
江架はおれの腕のなか、なにも変わらない顔をして目を閉じる。
面影は映し出される。
似ている、おれの大好きな人たちに。



