「そ、そんなこと……」
千葉先輩は、ほんとに変なひとだ。
今までわたしのことをかわいいとか、そんなふうに言うひといなかったのに……。
ドドドッと、速くなる心臓の音。
困って下を向くわたしを、千葉先輩が軽く引っ張りながら、ゆるゆる歩く。
「パンジーの花言葉がわかって、かわいーな、って思ったら、上野山ちゃんのこと待ってるのがじれったくなってきて教室まで行っちゃった。そしたら、ムカつくやつらがいて、生まれて初めて手が出たわ」
「ち、千葉先輩は、空手の黒帯所持者、なんですか……?」
おそるおそる尋ねると、先輩がククッと笑う。
「あー、うん。うち、道場で、父親が師範だから」
「そ、そうなんですね」
ふだんの千葉先輩の雰囲気からは想像つかないけど、ウワサはほんとうだったらしい……。
「でも、ケンカとか、ほんとは絶対だめだから。キレて壁パンチしたことはヒミツね」
千葉先輩が、しーっといたずらっぽく人差し指を口にあてる。



