恋するパンジー


 え、え……?

 ち、千葉先輩……!?

 その後ろ姿に唖然とするわたしだったけど……。 

 驚いているのは、もちろんわたしだけじゃない。

 顔の横すれすれに拳がとんできた竹森くんはもちろん、いつもわたしをからかって笑うクラスメートたちが、マヌケな表情を浮かべている。

「言っとくけど、上野山ちゃんがおれに絡んできてるんじゃないよ〜。おれが上野山ちゃんにつきまとってんの。でもさー」

 シーンとなった教室に、千葉先輩の軽い口調の話し声だけが響く。そのあと。

「次泣かしたら、許さねーから」

 ふいに、千葉先輩のものとは思えない、凄んだ低い声が聞こえてきて……。

 竹森くんの顔がさーっと青くなる。

 他のクラスメートたちも、顔をひきつらせて固まっている。

 凍りついた空気に、離れたところで見ていたわたしがおろおろしていると、壁から拳をはずした千葉先輩が振り向いた。

「上野山ちゃん、カバンどれ〜?」

 ふわっとゆるい笑顔を見せる千葉先輩は、いつも通り。

 ついさっき、壁をグーパンチした人とは思えない。