「え、せ、先輩……?」

 あたふたするわたしをよそに、千葉先輩は、教室の後ろのロッカーの前に固まってしゃべっている男女六人グループの方へとズカズカ歩いていく。

 わたしの陰口で盛り上がって笑っていたクラスメートたちは、千葉先輩の存在に気付いてない。 

 だけど……。

「あ、おい」

 グループのうちのひとりが気付いて千葉先輩を指差すと、からかいの言葉や嘲笑がやんで、教室がシーンと静かになった。

「あ、え? 千葉先輩?」

 ついさっきまで、意地悪な笑みを浮かべていた女子たちが、千葉先輩の登場に、表情を変えて色めきたつ。

 千葉先輩は、そんな彼女たちには目もくれず、ロッカーにもたれている竹森くんの前まで無言で歩いていく。

 次の瞬間。

 ドカッ!!

「おれの上野山ちゃん、泣かしたやつ誰~?」

 千葉先輩が、軽い口調で言いながら、竹森くんの後ろの壁を思いっきり殴りつけた。

 もちろん、グーで。

 当たらなかったけど、千葉先輩がグーパンチしたのは、竹森くんの顔の横すれすれ。

 竹森くんの横で、壁に展示してあった書道の作品がハラリと一枚落ちる。