「あ、え、え、っと……」
「上野山ちゃん、カバンは?」
挙動不審になるわたしに、千葉先輩が笑顔で尋ねてくる。
その笑顔がさわやかすぎて、逆に怖い。
なんとなくだけど、千葉先輩が怒ってる気がする。
もしかして、今の話聞かれちゃったのかも。
先輩だって、いやだよね。
わたしのせいで、二年生からバカにされるようなこと言われて……。
「あ、え、っと……。か、帰りましょう。荷物は別に、明日でも……。ど、どうせ、たいしたものも入ってないので……」
「いや、ダメでしょ」
ひきつり笑いを浮かべて逃げ出そうとすると、千葉先輩がわたしを引き止める。
「で、でも……」
泣きそうに見上げると、千葉先輩がわたしの頭を撫でた。
「そんな顔しない。上野山ちゃんは、逃げなくても大丈夫」
わたしにふわりと笑いかけてから、千葉先輩が肩にかけていたスクールバッグをぽいっと床に投げる。
なにをするのかと思ったら……。
千葉先輩は、そのままひとりで、教室の中に乗り込んでいった。