恋するパンジー


 どうしていいのかわからず、わたしは無言のまま、花壇に並べたパンジーの苗をひとつ手に取った。

 そばに置いてあったスコップを持って土を掘ると、千葉先輩との会話をなかったことにするように、苗を植える。

 苗の根元に土をかぶせて、その周りをスコップでならしていると、わたしの手元を無言で見ていた千葉先輩が、ふいに花壇を指さした。

「この花、なんて名前だっけ?」

 千葉先輩から話題を変えてくれたことに、少しほっとする。

「パンジーです……」

「ああ、そうだ。毎年、よく花壇に咲いてるよね」

 小さな声で答えたら、千葉先輩がにこっと笑いかけてきたから、さらにまた、ほっとした。

「そう、ですね……。パンジーは、花が咲いてる期間が長くて、花壇に植えるのにも向いてるんです……」

 小声でぼそぼそ説明したら、千葉先輩が「へえ」と興味深そうにうなずいてくれる。

 はっきりとしないわたしの話をちゃんと聞いてくれるのは、家族や昔からの知り合い以外では、千葉先輩くらいかもしれない。

「パンジーは色の種類も多いし、花言葉も可愛いくて……」

「へえ、どんなの?」

 つい、そのまま話を続けると、千葉先輩がわたしを見ながら首をかしげた。