「上野山ちゃん、次の授業なに~?」

「しゃ、社会です……」 

 大きな声で聞かれて、小さな声で反応する。

 でも、わたしがいるのは校舎の三階。とうぜん、千葉先輩にはわたしのささやき声は届かない。

「え、なに~?」

 両耳に手をあてて聞き返してくる千葉先輩。そんな千葉先輩のそばには、三年生の男子の先輩や女子の先輩がいて。

 わたしのことを見てクスクス笑ったり、「千葉~、後輩からかうのやめな~」なんて言ったりしてる。

 そんななかで、声を張り上げて千葉先輩の質問に答えるなんて、わたしにはムリだった。

 だけど、千葉先輩は地上からわたしを見上げたまま。にこにこ笑って、立ち去ろうともしない。

 わたしがなにか言うのを待っている。

 しばらく途方にくれたあと、わたしはふと思いついて、机の上に置いたノートを手に取った。

 地上の千葉先輩からでもよく見えるように、油性ペンでノートに「社会です」と大きく書くと、窓から見せる。

 そうしたら、千葉先輩が嬉しそうに、頭の上で両手で大きな丸を作った。

 わかった、ってことかな。