わたしの下の名前は、美しく咲くって書いて美咲。
名付けてくれた両親には申し訳ないけど、できれば下の名前はあんまり人に言いたくないし、呼ばれたくない。
わたしの名前は地味でイマイチな見た目と合ってないのだ。
『名前負けだよね』
そんな陰口を、今までどれだけ聞いてきたことか……。
下の名前を教えるのをしぶっていると、千葉先輩が少し残念そうにうなずいた。
「そんなに言いたくないなら、まあ、いっか。上野山ちゃんで。おれは三年の千葉郁也」
「し、知ってます……」
「え、なんで? おれ、これまでに上野山ちゃんとしゃべったことあったっけ?」
千葉先輩が不思議そうに首をかしげる。
「い、いえ……。はじめて、です。でも……、有名、だから……」
ボソボソと答えると、千葉先輩が「なんで〜?」と、本気でめちゃくちゃ不思議そうにしていた。
だけど……。
『カノジョが一ヶ月ごとに変わるらしいってウワサで有名なんですよ』
とは、千葉先輩本人には言えない。
それだけモテてるってことなんだろうけど。
恋愛関係の話って、デリケートなことだと思うし。
余計なことを言って、千葉先輩が気を悪くしても困る。



