恋するパンジー


 水分を落として顔をあげると、千葉先輩がうなずく。

「うん、やっぱり。キレーにしたら、美人だ」

「え……?」

 なんの話……?

 メガネをとられててはっきりと見えないけれど、パチパチとまばたきするわたしの前で、千葉先輩がにこにこと笑っているような気がする。

 よく確かめようと目を細めると、千葉先輩がわたしにメガネを渡して、代わりにフェイスタオルを取り上げた。

「名前、なんて言うの?」

「わ、わたし、ですか……?」

「ほかに誰がいるの?」

 千葉先輩がクツクツと笑う。

 念のため、メガネをかけてあたりを見まわしてみたけど……。

 千葉先輩の言うとおり、先輩から名前を聞かれそうな人はわたししかいない。

 きょろきょろするわたしを見て笑いながら、千葉先輩がもう一度訊ねてくる。

「名前、なんて言うの?」

「……上野山です」

「下の名前は?」

「それはあんまり……、言いたくなくて……」

「なんで?」

「な、なんでも、です……」