恋するパンジー


「そのままじゃひどいから、とりあえず顔洗いに行こ」

 ひどい、ひどいって……。

 たしかにわたしの顔はイマイチだけど、そんなに何度も「ひどい」って言われたらさすがに傷付く。

 でも、実際、千葉先輩から見たらひどい顔なんだろう。

 仕方ない。

 もう、どうでも……。

 わたしは抵抗をあきらめると、ベンチに置いたスクールバッグを拾って歩き出す千葉先輩のあとをついていった。

 わたしを中庭から一番近い手洗い場に連れて行くと、千葉先輩に顔を洗うように促された。

「じゃあ、軍手はずして。メガネもとって」

 片手にはめたままだった軍手とメガネをもぎ取られ、言われるままに冷水で顔を洗う。

 そうしたら、泣いて少し腫れぼったかった瞼がなんだかすっきりと軽くなった。

「はい、これ」

 水道の蛇口を閉めて顔をあげると、千葉先輩が横からフェイスタオルを差し出してくる。

 てきとうに、制服の袖で水を拭おうと思っていたわたしは、びっくりして目を見開いた。

「え、で、も……」

「気にせず使って。ちょうど持ってたから」

 千葉先輩に言われて、戸惑いつつもタオルを受け取る。

 気にせずと言われても、なんだか使うのが申し訳ない。けれど、使わないのも千葉先輩の優しさを無碍にするようで心苦しい。

 迷った結果、タオルで軽く撫でて水滴を落とすだけにして、なるべく濡らさないようにした。