花壇の位置からは背もたれ側しか見えないから気付かなかったけど……。ベンチに寝転んでいたらしい。
ふわっとセットされた茶色っぽい髪。
二重できれいなアーモンド型の目。
すっと通った鼻筋。ゆるーく口角の上がった唇。
やたらと整った顔をした彼の名前を、わたしは知っていた。
このひと……。
三年生の千葉郁哉先輩だ。
千葉先輩は、うちの中学ではけっこう有名な人だ。
遠めに見ても、イケメンってわかるくらいに顔立ちが整ってて。ふわっとした雰囲気で、誰にでも優しいから、とにかくめちゃくちゃモテるらしい。
ウワサによると、一年生の頃から女の子に告白されまくってて、一ヶ月単位でカノジョが入れ替わってるとか。
わたしも、校内で女の子を数人引き連れて歩いている千葉先輩を何度か見たことがある。
びっくりしてぽかんと口を開けていると、千葉先輩が、ふわりとベンチの背もたれを飛び越えた。
羽根でも生えているみたいなかろやかな動きに見惚れるわたしの前に、トントンッと千葉先輩が歩み寄ってくる。
「さっきのやりとり、一部始終聞こえてきてたけど……。やっぱりひどいね」
竹森くんとの話、聞かれてたんだ……。
しかも、千葉先輩に……。
はずかしい。でも……。
わたしなんかに同情して声をかけてくれた千葉先輩は、ウワサどおりに優しい。



