鏡と前世と夜桜の恋

一方その頃…

縁談の知らせはおすず一家の耳にも届いていた。女中が息を弾ませて報せを持ってくるやいなや、おすずは目を見開き大声をあげた。

「…蓮稀様があんな小娘と!?」

最初は信じられぬよう息を呑み込む。


込み上げてきたのは底知れぬ怒りの感情だった。これまで蓮稀様は縁談を何度も断られてきたのに、何故?

「…私のものだったのに」

呟いた声がやがて大きくなっていく… 怒りとも悲しみともつかぬ叫びがおすずの胸の奥から溢れ出す。

「蓮稀様は私のもの… 認めないよ… 」


次の瞬間、おすずは手にしていた香炉を叩きつけた。金属の音が響き女中たちが悲鳴を上げる。おすずは髪を振り乱し涙と嗚咽の中で奇声を上げる。

壊れた香炉から白い煙が立ちのぼり、静まり返った屋敷の空気を包み込む。

おすずの姿はまるで自分の獲物を奪われた野獣… 近くに居た女中を殴る蹴る。


執念に囚われ怒りを露わにし周りに八つ当たりを始める。

「… 鈴香、生意気な子だねえ。私の物を取るなんて絶対に許さないよ」

外ではまだ6月風が涼しく吹いていた。

だが、その屋敷の中だけは息苦しいほどに熱く重く、怯える女中達に " 蓮稀様は私の物だよ " 宣言し、歪んだ静寂に包まれていた。