ヴァイオレットが素直に本棚を見ながら言うと、イヴァンが「よかったら、僕が買うよ」と言う。その声はどこか震えており、緊張しているのがわかる。

「いえ!私が読むものですし、自分で買います!一応チャールズ様から、お金を結婚祝いとして貰っていますので」

ヴァイオレットはそう言うと、イヴァンと繋いでいた手を離し、棚から数冊本を適当に選んで店主のところへ持って行く。あのまま悩んでいたら、イヴァンがお金を出してしまうと思ったためである。

(お金のことでイヴァン様に迷惑をかけるわけにはいかないわ。こんな私を、偽りとはいえ妻として置いてくださっているんだから)

店主にお金を払い、買った本を袋に入れてもらう。その間、イヴァンからは何か言いたげな視線が突き刺さり、ヴァイオレットはイヴァンの方を見ないようにしながら本屋を出た。

「早かったですね。どんな本を買われたんですか?」

本屋の前で待っていたオリバーに声をかけられ、ヴァイオレットは「お待たせしてすみません」と軽く頭を下げる。すると、オリバーはヴァイオレットの隣にいたイヴァンを見て、何かを言いたげな顔をした。

「ヴァイオレット様、イヴァンと何かあったんですか?」

ヴァイオレットがチラリと横を見れば、イヴァンはどこかムスッとしている。

「そのーーー」

ヴァイオレットが何があったのかを話そうとすると、イヴァンに手を掴まれる。そして「来て」と言われ、手を強めに引っ張られた。