イヴァンはゆっくりとボウ・アンド・スクレープを見せる。その所作はまるで劇のワンシーンかのように美しく、領主になる者として教育を受けてきたことがわかるものだった。

「はい。喜んで」

ヴァイオレットは微笑み、カーテシーを行う。そしてヴァイオレットが顔を上げた後、イヴァンが手を差し出した。ヴァイオレットは迷わずその手を取る。

「もう屋敷の中に入ろう」

「はい」

守れるだけは嫌だ、その気持ちはヴァイオレットの中から消えてしまったわけではない。しかし、イヴァンが望まないのであれば無理に行動する必要はないと自分に言い聞かせる。

(傷付いてほしくない、そう言われて嬉しさを感じている……)

ヴァイオレットは胸元に触れる。心の中は穏やかで、温かいもので満たされていた。触れている手が熱い。

太陽が、ゆっくりと西へと傾いていった。