ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼

「そーちゃん……!」

 私が声をあげた瞬間、背を向ける篠井くんの耳が真っ赤に染め上がるのを見た。

「~~~……っ」

 そして篠井くんは、控室から走って飛び出した。

「あっ、ま、待って!」

 咄嗟にその背中を追いかける。

「篠井くん!」

 篠井くんは返事することなく、凄いスピードで教室棟の方へと走って行ってしまう。

「あっ、お、音葉さん!」

 そのとき、なぜか顔を赤くした山岸くんに引き留められた。いつもの横柄な態度はどこへやら、なんだかモジモジしている。
 あれ?いま〝音葉さん〟って……?

「えっと、すげぇ歌よかったし、その…髪型めっちゃタイプっていうか、つまり、かわー…」

 篠井くんのことが気になって、山岸くんの言葉が全然頭に入ってこない。

「ごめん!急いでるの!」

「え!?音葉さんっ」

 まだなにか言いたそうな山岸くんを置いて、私は走り出した。
 体育館を出ると、篠井くんはすでに遠く渡り廊下の向こう側の角を曲がるところだった。
 追いつこうと必死に足を動かす。

「そーちゃ……キャッ」

 私は角を曲がった先で足がもつれてペシャッと転んだ。

「!音葉!」

 打ち付けた鼻を涙目でおさえていると、篠井くんが戻ってきて心配そうに覗き込み、私の頬に両手を添える。

「大丈夫か? どこぶつけた?」

 その仕草が、ひよこ組のそーちゃんと重なった。