「本当は毎日帰ってきてほしかった。ずっとそばにいて欲しかった。それなのにあの人、最後まで音楽ばっかりで…寂しかったの。嫉妬してたのよ、あのギターに。だから音葉も取られちゃうような気がしてたのよね。ほんと小さい人間なのよ、私って」

 鏡越しに見ていたお母さんの目からポロッと涙がこぼれた。

「お母さん……?」

 これまでたくさんお母さんが泣くところを見てきたけど、こんな風に微笑みながら泣く姿は初めてだった。

「思い出したのよ…昔からあなた、歌ってる時が一番楽しそうだった。ごめんね。お母さんが辛いのはギターのせいでも、あなたのせいでもないのに。いつの間にかあなたを苦しめることばかりしていた」

 私は小さく首を横に振った。
 お母さんが仕事で大変なことも、私をちゃんと育てるために敢えて厳しくしていたことも、頭の隅では分かっていた。
 だからこそ、それに応えられないことが悔しかった。