隣から舌打ちが聞こえる。

「やっぱダセェな」

「……ごめん」

「なんでお前が謝るんだよ」

「ごめん……ごめん」

 篠井くんがはぁ、とため息をついた。

「ぜってぇあの猿だろ。警察来た瞬間逃げるようにどっか行きやがって」

「……」

「あいつのベース、川に投げ込んでやろうか」

「だ、だめ、だよ」

 篠井くんはまたため息をついてしゃがみこみ、舌打ち混じりに「わかってるよ」と呟いた。

 ……結局、私たちのライブは大失敗だった。
 私は、声を出せなかったのだ。
 
「ごめん……っ」

 篠井くんの曲、みんなにちゃんと届けたかったのに。
 悔しくて、涙がポタポタとこぼれ落ちる。
 篠井くんはステージを見るでもなく見ながら呟いた。

「気にすんな」

 そして私たちは、何の爪痕も残せずに初ライブの幕を閉じた。