ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼

 羞恥心で熱くなった頬に、冷たい汗がこめかみから伝って落ちた。

 次に声を出したら何て言われるんだろう…

 恐怖で喉がキュッと閉まる。
 
「……」

 そして私は、頭が真っ白になった。
 しばらくして音楽が止められる。

「……うーんと、君はうちの軽音部の規模知ってるよね?」

 立ち続けるだけで精一杯な私に、部長は困ったように笑って、組んだ腕を机に乗せる。

「須加戸中学軽音楽部は、部員数は須加中最大の126名、プロのコーチ指導のもと全中のバンド大会でトップ10入賞は当たり前、たくさんの有名バンドを輩出する強豪校だ。この須加中軽音部に入りたいがために、わざわざこの学校に来る人も少なくない。毎年入部希望者が殺到するから、こうしてオーディションを開催してるわけだけどー……」

 部長が子供をあやすような優しい声音で話す横で、また幹部たちが何か話してクスクスと笑った。 部長はコホン、と咳払いする。

「三年間ケーブル巻きでよければぜひ入ってもらいたいな。どうする?」

 向けられた部長の笑顔が、ひどく歪んで見えた。
 目尻に押し寄せる涙を必死に留め、首を小さく横に振る。

「……そうか、残念だよ。じゃあこれ持って帰ってくれる?」

 そう言って背中側に置いてある私の命よりも大事なギターを親指で示した。