私たちは出演者用に設置されたテントに入り、楽器を置いてパイプ椅子に座った。篠井くんがセットリストを書き込む横で、私はギターを取り出す。


 ――これはあなたの為を思って言ってるの

 ――ギターも歌も もうやめなさい


 ……やめない。 やめないもん。

 私は眉間にグッと力を入れて譜面を睨んだ。
 

「おい」

「きゃぁ!」

 集中してるところに篠井くんに話しかけられて、危うくギターを放り投げそうになる。

「きゃぁ、じゃねぇよ。何やってんだ」

「えっ、えっと……練習、だよ……?」

 舌打ちした篠井くんは仕方ねぇな、とぼやいてギターを取り出した。
 そして私の心の準備を待つことなくコツコツコツ、とギターのボディーを叩く。これは曲始まりの合図。
 後れを取らないように、慌ててひとつ目のコードを鳴らした。
 私が弾く和音に、さらに篠井くんが音をのせて、広がっていく。

 わ……気持ちいい……!

「っ……、♪~……♪」

 いつもなら歌うぞって気持ちを入れてからじゃないと歌い出せないのに。
 そこにどーぞって、私の席が用意されてるみたいで、歌わずにはいられない。

「♪~♪♫~」