「……!」

 ゾクゾクッと、つま先から頭のてっぺんまでを電気が走ったようだった。

「♪♪~……」

 すごい……、すごい……!
 上手、とか、プロみたい、とかそんなありきたりな言葉では語りつくせない。
 彼から紡ぎ出されるすべてが優しくて、でも強引に私を音の海へと引きずり込む。
 肌に感じる風も、目にうつる空の色も、地面に伸びる草の感触、花の匂いにいたるまで
 それまで見ていた世界が全部嘘だったんじゃないかと錯覚するほどにキラキラ、キラキラと輝きだして。
 彼の音色が、私を覆っていた黒ずんだ世界を晴らしていくみたいだった。 

「っ……、」

 胸が苦しくなった。
 胸が苦しくなるほどかっこよくて。
 生きててよかったと思った。

 ヘッドフォンの彼がAコードを響かせて曲を終わらせたとき、私の目からあたたかい涙がポタポタとあふれ出した。
 ヘッドフォンの彼はそんな私を静かに見ている。
 それでも、さっき流したのとは全然違う味の涙は、次から次へと溢れ出ていく。

「…なぁ」
 
 ヘッドフォンの彼はゆっくりと私の頬に手を伸ばすと、私の涙を親指でぬぐった。

「!?」

 その手つきが予想外に優しくて、あったかくて、思考停止する。
 
「俺と組もう」

「え……?」

 彼の力強くどこか優しい目に、月明かりがそっと映りこんだ。

「お前の世界、俺が変えてやるよ」