○奏の部屋、ベランダ(朝)【つぐみ視点】

洗濯物を干している制服姿のつぐみ。
空は快晴。
太陽が眩しく、夏の始まりを感じさせる。
つぐみ、手で日を遮りながら空を見て、にっこりと笑う。

つぐみM「(1話の出会いを振り返りながら)私たちが出会ってから1ヶ月」
つぐみ「(2話、3話を振り返りながら)本当にいろいろなことがあって」
つぐみM「季節は 春から夏へ」
つぐみM「そして私たちの関係も」

奏人、部屋から顔を覗かせて、

奏人「おはよ、つぐみさん」
つぐみ「(振り返って)あ、おはようございます」

洗濯物を干すつぐみの左手薬指には、指輪が光っている。

つぐみM「私たち 結婚しました」


T「第4話 はじめまして、幸福の日々」
T「ドキドキ、ワクワク、ハラハラの新婚生活が始まるーー」


奏人「残りは俺がやるよ。今日学校なんでしょ」
つぐみ「あ! もうこんな時間! じゃあお願いしちゃおうかな……」
奏人「ん」
つぐみ「奏人さん今日お仕事は?」
奏人「ギターの譜面起こしの仕事するけど……昼までには片付くと思う」
つぐみ「そうなんですね。頑張ってください」
奏人「そっちも……土曜なのに学校って、大変だな高校生」

T「3年生は午前中だけ土曜講習」

つぐみ「一応受験生なので……」
奏人「……そっか。頑張れ」
つぐみ「ありがとうございます。行ってきます!」

鞄を持ち、玄関へ向かうつぐみ。

奏人「あ、待って」

奏人、靴を履いているつぐみを呼び止める。
振り返るつぐみ。
奏人、つぐみの手を握る。

つぐみM「――え?」

頬を赤らめ硬直するつぐみ。
甘い雰囲気の中、撫子がバーンと玄関の扉を開ける。

撫子「奏人ぉ! つぐみぃ! ラブラブしてっ、か……」

一同、驚いた表情で硬直。
奏人、手を取ったまま。
つぐみの手を握る奏人を見て、撫子、

撫子「あああああああああああ!!(歓喜)」
奏人「……ちがあああああああああう!!(照)」

(アパート全体が映って)
撫子・奏人「うわああああああああああ!!」


【奏人視点】
○アパート・奏人の部屋

つぐみが学校へ向かった後。
クールダウンした撫子と奏人。

撫子「いやあ、あんたも朝っぱらからやりよるなあ」
奏人「ちげーつってんだろ! 指輪つけたまんまだったから!」
撫子「ああ! あんたがプレゼントしたやつね。そうかそうか。つぐみちゃん、いつも大切につけてるもんね。そりゃあ愛しくて手を握ってしまうわなぁ」
奏人「違う!! つけたままで先生に叱られたら困るだろ……!」
撫子「あーはいはい、わかりました! そういうことにしといてやるよ!」
奏人「……で? そっちは朝っぱらから何の用だよ」
撫子「ああ……ちょっとおまえに話があってな」
奏人「……?」


【つぐみ視点に戻る】
○学校・教室

英語の授業中。
ペンを持って机に向かうも、集中できていないつぐみ。
つぐみ、顔を赤らめながら、

つぐみM「びっくりした〜〜……!」

×××
(フラッシュ)

つぐみの顔付近に手を伸ばす奏人。

×××

つぐみ、ペンを机の上に落とし、
真っ赤な顔を手で覆いながら、

つぐみ「ち、近すぎる……」

授業終了のチャイムが鳴る。
それと同時に、机に突っ伏すつぐみ。
梨沙がつぐみのもとへ駆け寄ってくる。

梨沙「お疲れつぐみー! あれ、大丈夫? 具合悪い?」
つぐみ「どうしよ、梨沙ちゃん! なんかドキドキが止まんない……!」
梨沙「えー!! なになに!? つぐみのそういう感じ初めて見たんだけど!!」
つぐみ「だって……」

つぐみが言いかけたそのとき、女子生徒たちが窓際に集まりキャーキャーと騒ぎ出す。

女子クラスメイトA「えー! 誰あの人! ちょーかっこいい!!」
女子クラスメイトB「彼女待ってるのかなー!」
梨沙「えっ♡ イケメン? どこどこー!?」

立ち上がって、梨沙に続いて窓の外を見るつぐみ。
そこには、校門の前に立つ奏人の姿が。

つぐみ「えっ! 奏人さん!?」
梨沙「え!?」


○学校・校門前

校舎から校門へと走るつぐみ。

つぐみ「奏人さん!」
奏人「あ、お疲れ」
つぐみ「奏人さん、一体どうしたんですか!?」
奏人「迎えにきた」
つぐみ「え!? そんな、どうしてわざわざ……」
奏人「……」

×××

(奏人・回想)

○アパート、奏人の部屋

奏人「……なんだよ、話って」
撫子「いやあ、なんでもないことかもしれないんやけど……昨日の夜、なんや怪しい子がうちに来よってん」
奏人「はあ? 何それ、誰それ」
撫子「知らんて! なんか若い……中学生くらいの男の子やったよ? はじめはあんたの友達かなって思ったんやけど、その人、あんたとつぐみちゃんのこと色々勘繰ってて……」

×××
(撫子・フラッシュ)

○撫子と名作の部屋・玄関先

玄関先に立っている少年・花宮陽太(はなみやひなた)。茶髪の柔らかい猫っ毛。
(画角的に)目元が見えず、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。
撫子、玄関先で怪訝な目で陽太を見る。

撫子「あんた何なん!? いきなり来よってどういうつもり――」
陽太「(遮って)2階に住んでる諏訪部さん。ご結婚されるそうですね」
撫子「……はあ?」
陽太「単刀直入に聞きます。諏訪部奏人という男……」

ミステリアスな一樹の雰囲気に、息を呑む撫子。

一樹「……どんな奴なんですか?」

(撫子・フラッシュ終わり)
×××


撫子「……なんか、異様な空気やってん。あんた、何かした……? 恨み買ってるんとちゃうよね? まあ最悪あんたはいいけど、つぐみちゃんに何かあったり……いやあ、考えすぎかねえ、ははは……」
奏人「……」
(奏人の回想終わり)
×××

(戻って)
奏人「……いや、なんとなく」

つぐみM「なんとなくでも 私のことを考えて 想ってきてくれることが なぜだろう」
つぐみM「こんなにも嬉しいなんて」

つぐみ「……ありがとうございます」

顔を赤らめるつぐみ。

奏人「……撫子と名作がなんか企んでたよ」
つぐみ「え?」
奏人「結婚祝いだって。盛大にやるって張り切ってた」

×××
(奏人・フラッシュ)

撫子「ま、とにかく祝うぞ! 宴だ! 美味いもんたっくさん作ったる!」

×××

つぐみ「えー! いつもお世話になってるのにご馳走にまでなっていいのかなぁ……でも嬉しいな……」

嬉しいそうに笑うつぐみに優しい眼差しを向ける奏人。
つぐみと奏人、学校を去る。

○学校の校舎、2階【律視点】

2階から校舎の外を見下ろし、律のクラスメイトA、律に向けて、

律のクラスメイトA「なああれ、お前の元婚約者じゃね?」
律のクラスメイトB「うわ、イケメンと一緒じゃん」

律、窓の外を見る。

律「……」

律、奏人の隣で楽しそうに笑うつぐみを、複雑な表情で見つめている。
(つぐみに未練があることを匂わせる)


○【つぐみ視点に戻って】アパート、奏人の部屋

アパートへ帰宅する二人。
玄関のドアを開けると、撫子と名作が盛大に出迎える。

撫子・名作「奏人/奏人君、つぐみ/つぐみちゃん、結婚おめでとー!!!」
つぐみ「……!」

ポカーンとした表情で硬直するつぐみ。

名作「あれ、つぐみちゃん……?」
奏人「ちょ、びっくりしすぎて固まってるじゃん。おーい、つぐみさーん?」

そのとき、つぐみ、呆然とした表情のままぼろぼろと涙をこぼす。

つぐみ以外の一同「!?」
奏人「ちょ、え、なんで泣……!」
撫子「どうしたつぐみ!?」
名作「つぐみちゃん……!?」
つぐみ「……! す、すみません……」

ハッとして、腕でゴシゴシと涙を拭うつぐみ。

つぐみ「私の結婚をこんなに祝ってくれるなんて、今まで想像もしてなかったから……それに、誰かにこんな風にお祝いしてもらったこと、今までなくて……初めてで……すごく、嬉しくて……」

つぐみ以外の一同、顔を見合わせて笑う。

撫子「あっはっは! そうか! 初めてか! そいつはますますめでたいなあ!」
名作「これからも、おめでたいことはみんなでお祝いしよう」

つぐみ、顔を上げ、涙目で見る。
二人とも満面の笑みを浮かべている。
つぐみ、奏人の方を見る。
奏人、優しげな笑顔で頷く。
つぐみ、涙を浮かべながら微笑む。

つぐみ「皆さん……ありがとうございます」
撫子「……おう!」

撫子、腰に手を当てニッと笑う。
名作、優しげにサムズアップ。
奏人、穏やかな表情で微笑む。
それを見たつぐみ、にっこりと笑う。

撫子「さ! 飯にすっぞ! 宴だー!」
つぐみ・名作「おー!」

奏人と名作はビール、つぐみと撫子はジュースで乾杯し、食事を始める。
名作がのり巻きを喉に詰まらせて苦しむ姿を見て、つぐみは心配そうに背中をさすり、奏人と撫子は爆笑している。
部屋の音楽に合わせて撫子が歌うのを、つぐみと名作は楽しそうに、奏人は鬱陶しそうに(思春期のよう)見ている。


○奏人の部屋、玄関

楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、撫子と名作、帰宅しようと玄関に立つ。
酔っ払った名作の肩を組み、玄関に立つ撫子。

撫子「邪魔したな」
つぐみ「いえ! 楽しかったです」
奏人「ったく、飲み過ぎだよ……」
名作「ごめ〜〜ん」

名作、顔は真っ赤で、ふにゃふにゃとした表情を浮かべている。

撫子「ほら、ちゃんと立て!」

名作の頭を軽く小突く撫子。

名作「痛いよなでちゃーん……」
つぐみ「今日はありがとうございました。お気をつけて」
撫子「おう! それじゃまたな!」
つぐみ「はい!」

部屋を去る二人。

つぐみ「……帰っちゃいましたね」
奏人「やっと静かになる」
つぐみ「でも楽しかったんじゃないですか?」
奏人「……まあ、それなりに」
つぐみ「ふふ」

つぐみ「撫子さんや名作さんとは、いつ知り合ったんですか?」
奏人「あー、2年前くらい? 俺がこのアパートに来たときから、頼んでもないのに朝起こしに来たり飯作りに来たり」
つぐみ「愛されてるんですね」
奏人「世話好きなんだよ、あの夫婦は」
つぐみ「……撫子さんが」
奏人「?」
つぐみ「奏人さんにも大変な時期があったって、言ってたんですけど……」
奏人「……」
つぐみ「……詳しくは聞きません。奏人さんも、色々あったんだと思います。ただ、家を出た今、その……」
つぐみ「私と結婚したよかったって、思いますか……?」
奏人「……」


ピンポンと、インターホンが鳴る。

つぐみ「あ……」
奏人「っ……また撫子たちかな」

奏人、質問には答えず玄関へ。

つぐみ「え……でも撫子さんはインターホンなんて鳴らしたことなんて……」
奏人「おい、一体なんなんだ……よ……」

扉を開けた先には、昨晩撫子の家を訪れた少年・陽太の姿が。

陽太「はじめまして。諏訪部奏人さん」
奏人「!」
陽太「突然で申し訳ないのですが、お宅のつぐみさん――」
陽太「僕に返してもらえませんか」
奏人「……はあ?」

ミステリアスな笑顔を浮かべる陽太と、動揺しつつ陽太を睨む奏人の鋭い表情で、4話終わり。