死んだキミに伝えたかった言葉

冬のある日、スイートピーの花束を抱えて、墓の前に来た。
その墓は、この墓地の最奥にあり、あまり人が来ないせいか、花は枯れ落ち、砂埃を被っていた。そしてその墓には「相島夜ナ」と刻まれていた。

相島夜ナ…
数年前に死んだ俺の最愛の彼女だ。
死因は不明。正確に言うと、覚えていない。
中学校でクラスが一緒になり、出会った。
最初は明るく元気な女子だと思っていた。
しかし、日が経てば経つほど彼女の元気さは無くなっていった。そして、初夏のある日彼女は担任を前にして、初めて泣いた。「もう無理です」と、
それからしばらくして、理科の実験があり席が隣になった。
3度目の理科の実験の日、彼女は小さなミスをした。そのミスをクラスのお調子者に責め立てられ、反論出来ずに泣き崩れた。クラスメイトの前で彼女が泣くのは初めてだった。
クラスメイトはみんな驚いた顔をし、女子は彼女を慰め、お調子者を責め立てる。それを見ていた男子は慌てて、彼女に「ひとりになりたい時もあるよな、」と言い、周りで慰めている女子達に「こういう時ぐらいひとりにしてやれよ」と言った。それを聞いた時、俺はあの時、担任を前に泣く彼女が言った言葉を思い出した。もう無理です_。
あの時、どうして泣いていたかは知らないけれど、彼女はもう限界なのだろう。
人間関係も、気を使ってばかりで自分の意見を通そうとはしない。いつも周りを気にかけて、クラスに馴染めるように無理矢理"明るく元気なキャラ"を作っていたのだろう。
もうこのクラスになってから、3ヶ月経った。
きっと彼女はもう限界を超えている。
3ヶ月間も自分じゃない自分でいたら、本当の自分も見失ってしまう。キャラを作るのだって、本当はクラスに馴染む為ではなく、"嫌いな自分"を変えるためだったのかもしれない。
もし、そうならば、彼女は上手く好きな自分を演じられない自分を消す為に自殺という手段を選ぶかもしれない。それだけは、絶対に止めなくちゃいけない。そう思った。
「待って、今ひとりにしたら危ない」
気が付いたら、「ひとりにしてやれ」と言ったクラスメイトにそう言っていた。
クラスメイトは、真剣な表情になり、何も言わなかった。彼女は何かを失ったような、虚空を見るような表情をして、泣き腫らした眼で俺の後ろの壁あたりをぼぅっと眺めていた。その時、彼女の指先が震えていたなんて俺は気付きもしなかった。

あの理科の実験以来、彼女が人前で泣くことはなかった。キャラも明るく元気な彼女に戻っていた。彼女は絵を描くのが大好きで、授業中によく描いては、授業終わりにその絵を友達に見せて笑っていた。
でも、やはり出会った最初の彼女とは何かが違う。
笑顔を作るのが上手くなったのか、それとも
前より周りの目が怖くなったのか…原因はわからないが、最近の彼女が不自然なのはあからさまだった。

次に彼女に異変が現れたのは、3学期のスキー教室。彼女はあまり人前に立つタイプではないのに、2泊3日のスキー教室の1日目のレクリエーションで彼女は友達を連れ、舞台にあがり綺麗に歌った。ただまっすぐ前を向き、強くしなやかな歌声で、小さなホールを包み込んだ。
レクリエーションが終わり、相島さんの部屋の室長である薄野を呼び止め、「薄野、相島さんに歌よかったよって伝えておいてくれない?」と頼むと、薄野は「ん」とだけ返して足早に部屋に帰って行った。
翌日の夜、時間になり友人である藤野と風呂に向かっていると、お風呂上がりの彼女とすれ違った時彼女に呼び止められた。
「姫川さん!昨日、ありがとう」と笑顔で言われた。「本当によかったよ」と返すと彼女は嬉しそうに笑って「ありがとう」ともう一度言って走って部屋に戻って行った。
その様子をみた藤野が「あの相島の反応は脈ありじゃないか…?」とニヤニヤしながら、自信あり気に言ってきた。その時の俺は「んっな、わけないだろ」と笑って誤魔化した。

スキー教室も終わり、3年生の卒業式の準備でみんなバタバタしていた。その卒業式準備で夜ナと薄野、藤野と俺、岩結、有江の6人は3年生の教室の飾り付けをすることになった。卒業式準備最終日、帰り道の途中、彼女に呼び止められ、「好きです」と言われた。藤野はほら、やっぱりという顔をしていた。夜ナと俺の間には少しの沈黙のが続いた。その沈黙の中、先に口を開いたのは俺だった。
「いいよ、俺達付き合おっか」
そういうと、彼女は笑顔のまま泣いて「ありがとう、よろしく」と言った。と同時に近くの物陰に隠れていた岩結が飛び出て来て、彼女に「よかったじゃん!夜ナ!!」と抱きついた。
それを見ていた、藤野も俺に飛びついてきた。しばらく俺は動けなそうだが、こんなのも幸せなんだろうなと思った。

…というこれが彼女と付き合うまでの話だ。
正直、断る理由が何もなかった上、相島の事が嫌いというわけでもなかったので承諾しただけだ。この頃は決して両想いだったとか、そういうものではなかった。ただ、不都合が無いから、付き合う。それだけだった。

これまで俺は付き合ってきた女子を本気で恋愛的に好きになった事は無い。毎回、あっちから告白されて、期待外れだとフラれる。
恋愛なんてそんなもんだと思っていた。