混雑のピークだったこともあって、順番で呼ばれた席は広いホールの中央


「棗、平気?」


「うん、大丈夫」


この状況で個室に通される確率なんて
ほぼ無いのと同じ


騒然とした中の食事は珍しくもないのに
顔を晒した風馬に視線が集まっているのがヒシヒシと伝わってきて、なんだか落ち着かない


「やっぱり調子悪いんじゃないか?」


「ううん」


醜い感情なんて、風馬には知られたくない


二種類のスープとサラダのセットを注文した風馬は
熱いスープを掬うたびフゥフゥと冷ます


昔から変わらないその仕草を見ているだけで

込み上げてくる笑いは気持ちも解してきて

いつの間にか周りが気にならなくなっていた


「棗も気をつけて」


「フフ、うん」


「もうお腹いっぱい?」


「うん」


「じゃあ帰ろうか」


「「ご馳走様でした」」



いつも私を優先してくれる気配り上手の風馬

間違いなく今夜だって私の気分転換に連れ出してくれた

そのお礼のために気持ちを切り替えて手を繋いだ


くしゃりと笑う私の頭を撫でた風馬とクレープ屋さんへ向かう



「苺?」


「バナナかな〜」


「プリンもあるよ?」


「ゔぅ」


行列に並ぶ間のメニュー決めだって楽しくて、出来上がる頃には気分が上がっていた


「風馬、ひと口ちょうだい」


「ん、ほら」


「んまい。ほら風馬も」


「ん、サンキュ」


お互いに必ず一口ずつ貰うのも昔から


違和感も感じないまま、過ごしてきた風馬との距離は


改めて考えてみても家族よりも近い


「棗?」


「ん?」


「ここ」


立ち止まって顔を覗き込んだ風馬は
私の眉間を指で撫でた


「ずっとシワが寄ってる
なんか、あるんじゃないか?」


「・・・ん」


「吐き出した方が楽になるかもしれないぞ?」


「ん」


私の考えていることなんて
風馬のことばかりで


それをストレートに伝えるには
頭の中が混乱し過ぎている


「難しく考えんなよ」


「ん?」


「これから先もこれまでと同じように
こうやって手を繋いでさ」


繋いだ手を顔の高さまで上げると、ブラブラと揺らし始めた


「棗と一緒に居られるのが俺の望み」


「・・・風馬」


「棗も俺と一緒に手を繋ぎたいって思ってくれると嬉しい」


風馬と並んで歩くいつもの道は
風馬を異性として意識しただけで


いつもより温かさに包まれていた