だがリヴィも祖母も、治癒士たちはある種の諦めをもって自分の生業を全うしようとしている。
「すまない、私は……」
レインスは彼女の穏やかな答えにぐっと言葉に詰まった。たいていの患者はそのあと、治癒士とは距離を置く。だが彼はそうする代わりに、リヴィに好きな花や食べ物を尋ねたり、街で話題の大道芸人の技の秘密を話したりするようになった。
(この方は、治癒士を避けたりしない……のね)
月が丸く輝く夜、レインスは彼女に往診を頼む。そしてこの古い屋敷ではすこしの間だけ、温かな時間が流れるのだ。
赤い髪の騎士は彼女の治療を受けながら、ぽつりぽつりと自分のことも話してくれた。
「街での噂は、半分は本当だ」
赤茶の前髪が額にかかる。リヴィの手当てに長いまつ毛をふるりとふるわせながら言葉を紡ぐ。アルベルト・レインスは有力な貴族の長子であり、王都でも誉ある騎士団に属していたこと。魔物に襲われた村への遠征で、子供を逃すため自分が囮になり、その際魔障を受けたこと。
王都では、魔障は貴族にとって大変不名誉なことだという。だから彼は家のため、地位を捨て、逃げるようにして辺鄙なこの土地に流れついたのだ。
「ちょうどよかったんだ。私には弟たちがいる。それに、王都の馬鹿げた権力争いも、偏見と高慢に満ちた宮廷にも嫌気がさしていたから」
あそこにいては魂が腐ってしまう。彼は自嘲気味に笑った。婚約も相手側に破棄されたのだという。
リヴィはそこでなぜか、ぎゅっと胸が締め付けられた。
「……婚約者さまが、おられたのですね」



