リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく


 彼がどのくらいの怪我を負ったのかわからない。即死をまぬがれてはいるはずだ。だが、エミリーは何発も撃ったと言っていた。リヴィは神に祈りながら、馬の腹を蹴り続けた。

 森は静かに彼女を待っていた。

 木々を通り過ぎ、神秘的な湖のそば、リヴィはとうとううずくまる人影を見つけた。馬から転がるように降りて駆け寄る。

 レインスだ。チュニックは赤く染まり、黒い染みとなって彼の腹のあたりを染めている。

「そんな……だめよ! だめよ、レインス様っ」
 大樹まではあと数歩という湖のほとりで、レインスは力つきていた。

 蒼白な顔に、もう息はない。

 彼女は叫びだしそうになるのを唇を噛んで耐え、傷口を押さえながら、必死で大樹のそばへと彼を運んだ。

 湖は夜の星を映して小さく瞬く。彼女は大樹のうろにレインスの身体を横たえた。そして清水をかけて傷口を洗う。何度も何度も往復しては、声をかけ、傷口を洗い、大樹に祈る。
 だが、彼は動かない。それでもリヴィは諦めなかった。

(諦めたくない。レインス様は信じてここまで来たのよ、お願い、伝説はほんとうだったと教えて!)

 彼女は何度も何度も彼の額に触れ、心臓に触れ、夜通し手を握りしめた。

 何時間経ったのだろう。

 東の空がオレンジ色に染まる。だんだんと光が強くなり、リヴィは眩しさに目を細めた。

 朝日がキラキラと大樹と湖を照らす。そして、レインスの身体も陽の光を浴びた。大樹から細かな光の粒が、レインスの中へ入っていく。
 リヴィの手の中で、レインスの指がぴくり、と動いた。