リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく



 妹のように思っている女性と婚約を決められた。彼の魔障がわかると同時に婚約破棄されたと話していたのは、彼女のことだったのだろう。

 エミリーの方は親に勝手に婚約を破棄されたが、ずっと慕っていたということか。

 怒りか、嫉妬か、羨望か、悲しみか。

 どんな言葉でも表現できない感情がリヴィ・スノウの胸の中で暴れまわる。彼女は立ち尽くして、じっとその感情が過ぎ去るのを待つしかなかった。

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 その夜、リヴィはまったく眠れずに何度も何度も寝返りを打ってはため息をつくというのを繰り返していた。

(今ごろ、レインス様はあの方と……)

 美しいドレスと品のあるしぐさが頭をチラつく。そして、彼女を見るレインスの穏やかな顔。妹のようだとはいえ、婚約者だったのだ。

(そうよ。こんなことがあるかもしれないと思ったから、私は嘘をついてまで、彼を手に入れようとしたのだわ)

 あの時の望みは、彼に抱かれることだった。

心まで手に入れたいと願ったりしてはいけない。

私はただの田舎の治癒士で、魔障がなくなったレインスは立派な騎士なのだから。だからこれでよかったのだ。

 笑顔で、せめて笑顔で送りたい。

 リヴィは目をぎゅっと閉じて、布団に潜り込もうとした。窓から月明かりが差しこむ。今日も、街では花火が打ち上がっていた。どん、と華やかな音がするたびに歓声が遠く聞こえる。

「……そんなこと、できるわけないわ。大好きなのに……レインス様」

 知らず声に本音が出てしまい、涙がこぼれだす。ぽろぽろと止まらない涙を花火から隠すように顔を背けた時
 またどん、と地響きがした。同時に寝室の扉が大きく開く。

(え?なんで、勝手に……)

 そう思う間もなく、寝台に何者かがつかつかと近寄ってきた。ぎしりと寝台に乗り、彼女に馬乗りになる。
 怯えて固まっているリヴィを見下ろしているのは、黄色いドレス。
 エミリーだった。