エミリーは怒ったように唇を突き出す。レインスは慌てて
「こら、そのような物騒なことを口にしてはいけないよ。君はレディなんだろう」
と嗜める。
「ふふ。冗談ですわ。とにかく、王都へ帰りましょうお兄さま。魔障はもう消えるのでしょう?」
「ああ、もうすぐ治る。彼女のおかげだ」
「ならばすぐにでも出発できますわね。このような場所、私はとても長居できませんもの。ああ、でも、今日は疲れてしまったわ。……ねえ、お兄さま、どこか静かな宿はあります?この街で一番高級で、きちんと秘密の守れる宿」
彼女はリヴィに向かってあやしげに微笑んだ。
「わたし、たくさん話したいことがありますの。お兄さまに、二人だけで」
レインスはしばらくの間黙って彼女の様子を見つめていた。
「お兄さま?」
やがて、彼は口元を引き締め、頷いた。
「そうだな。私も、お前に話すことがある」
彼女は両手をぱん、と合わせた。
「では決まりですわ! さあ、行きましょう。ここに来たこと、ほんとうは内緒なのです。知らせが本当か確かめたくて急いで屋敷を抜け出しましたのよ。あまり人に見られたくありませんから、その宿へ案内してくださいませ」
幸い詰所は今見回りで出回っていて人はほとんどいない。彼女はレインスを追い立てるように外へ出て、馬車へと乗り込んだ。かと思うと早足でリヴィのもとへ戻ってくる。
「あなた、おうちはどこ? 後でお礼に伺うわ。私の未来の旦那様を治してくださった報酬をお支払いしたいの」
「報酬は、きちんといただいています。お気になさらず」
リヴィはそう答えるのが精一杯だった。エミリーは無邪気な様子で笑う。
「そんなこといわずに、ね?受け取ってちょうだい。あら、これね。この名刺いただくわ。では、のちほど」
エミリーは嵐のように去っていった。リヴィの愛しいレインスをその美しいドレスに巻き込むようにして。



