リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく


「……いや、そんなはずは。確かに、そちらからの婚約破棄の通知を受け取ったよ」

 彼は穏やかに首を横に振った。

「あれは……あれは、父が逆上しただけですわ」

 エミリーはあたふたと早口で説明を始めた。

「あの後、神官様から正当な理由もなしに婚約の破棄などできないと言われたんですって。魔障があるから結婚を取りやめるなど、問題外だと」

 魔障持ちは差別されるべきではないのだという。近年、あまりのその手の差別待遇に、神官たちがついに国王に言上したらしい。とはいえ、そんな知らせが遠いこの街に届くのは、一年や二年かかるだろうが。

「だから、アルベルト様も戻って来れるのよ。誰も差別したりしないわ。だから、婚約だって続行ですわ」

 彼女は鼻息荒い。

「それは、なんとも、信じがたい話だ……」

 レインスは眉を顰めた。
「いくらそんな宣言がなされたとしても、長年の宮廷社会が急に変わるとは思えないが。私が戻ってもやはり、父たちには迷惑なだけだろう」
 魔障持ちと敬遠されるくらいならば、栄誉ある死の方が尊ばれる空気さえあるのだ。
「そんなことおっしゃらないで! ともかく、正当な理由……たとえば私かアルベルト兄様が死ぬとか、そういうことがない限り私たちは夫婦にならなければいけないのですわ!」