リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく


 彼は懐かしそうに彼女の頭に手をおいた。リヴィはそれを見て、ぐさりと心臓に何か刺さったような気分になる。嫌な予感が足元を這い上ってきていた。

「おやめくださいませ。いつまでも私を妹のように扱うのは。私はもう立派な適齢期の令嬢なのですよ」
「あ、すまない。つい……。だが、それこそ、適齢期の令嬢がこんなところへ来る用事などないだろう? 私とお前はもう、何の関係もないはずだ」
「なにをおっしゃるの。お兄様を連れに来たのですよ!わたくしの婚約者ではありませんか」

 彼女は当然のように言い放つ。そして、ちらりとリヴィに目をくれた。

「そちらは?」
「ああ。 彼女は治癒士のリヴィ・スノウ嬢だ。私の魔障を治してくれている……とても、優秀な治癒士だよ」

 レインスは彼女の名前をとても大事そうに呼んだ。エミリーはそれを遮るように、

「あら!治癒士!初めてみましたわ。アルベルトお兄様を治してくださったのね。お礼を言うわ」
 とおざなりにドレスの裾を摘み頭を下げた。

「いえ……。しごと、ですから……」

 リヴィは肩を小さくして膝を折る。エミリーは明らかに貴族階級の人間で、リヴィのことを見下すような瞳で見て、すぐにレインスの方を向いた。

「エミリー。私を呼びに来たとは、どういうことだい?レインス家も、君の家も、もう私は用はないと思うんだが」
「あら、そんなこと、とんでもありませんわ。お兄様はまだ私の正式な婚約者ですのよ?」