リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく



「そうだな。あなたは、皆の治癒士だ……だが」

 二人の間にぎこちない空気が流れたとき、大粒の雨がぽとりと地面に落ちた。

「……雨がひどくならないうちに、街へ帰ろう。さぁ、手を」
 そうして差し出されたレインスの腕は騎士そのものの礼儀正しさを纏っていて、リヴィはホッとしたような、悲しいような気持ちでその手を取り、馬に跨った。

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 街に入るまでに雨は本降りになり、馬車に乗り換えるため彼らは一度騎士団の詰所に降りることにした。そこに、見慣れぬ黒塗りの一頭立て馬車が止まっていた。
「客人だろうか」

 レインスは首を傾げながら詰所に入る。リヴィも後に続いた。すると、玄関ホールに、ひときわ目を引く黄色のドレスが目にはいった。

「アルベルトお兄様! アル様!」

 黄色のドレスがひらりと回り、こちらに向かってくる。

 くるくると巻き毛を揺らした華やかな顔の令嬢が、満面の笑顔でレインスに抱きついた。リヴィはその勢いに押されて後ろによろけてしまった。騎士はリヴィをしっかりと支えた。

「失礼。大丈夫か?」
「あ、はい。ありが…」

 リヴィの答えを遮るように、ドレスの娘は声を高くする。

「ああ! 知らせは本当だったのですね!なんということ!レインス家の長子がこのような辺鄙な田舎町で」
「……エミリー?」

 レインスは驚いて令嬢を見ている。黄色いドレスの令嬢は嬉しそうに頷いた。はちきれんばかりの胸をレインスの腕に押しつけながら、彼女は甘ったるい声で続ける。

「そう。貴方様の婚約者の、エミリーですわ。お会いしたかった……やっと見つけましたわ!」
「エミリー。……なぜ、ここに…」
「もちろん、貴方様の活躍を耳にしたからですわ。突然王都から出奔したと思ったら、こーんな田舎にいらっしゃったなんて!」

 エミリーと呼ばれた令嬢は不満げにあたりを見回した。

「元気そうで、なによりだ。エミリー」