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あの日から、時おり彼はリヴィの診療所を訪れるようになった。必ず花束と、そして籠いっぱいの菓子を持って。
彼女は思った。これは彼なりの罪滅ぼしなのだろうかと。優しい彼は、私を抱いたことを後悔しているのだ。清廉潔白な騎士が、欲情に負けたと自分を責めている。だから、こんなに頻繁にやってきてくれる。
嘘をついたのは私なのに。嘘で、彼をからめとったのに。
苦しいけれど、でも本当のことを言ったらきっとレインスは怒って去ってしまう。それが怖くて、リヴィは彼に本心を問いただしたりしなかった。
彼が来たらお茶を淹れ、他愛もない話をする。リヴィが薬草をつくる様子を興味深く見守っては質問したり。そうしてひととき語らうと、また帰っていく。そんな日が続いた。
もうすぐ、次の満月になるという日、リヴィはアビダルの森へ非番のレインスを案内した。
馬で数時間ほど遠乗りして、森の中の湖に着く。ほとりに根を張る巨大な樹を見て、レインスは感嘆の声を上げた。
「これは……。素晴らしい古樹だ。生命力に溢れている」
「ええ。この地方の治癒士はみな、昔からアビダルの大樹からの恵みで薬を作っています」
「おそらく千年はこの地にあるのではないだろうか」
リヴィは、彼が興味を示してくれるのが嬉しくて仕方なかった。
「どのくらい昔からあるのかわかりませんけれど、この地で命を落とした戦士が、アビダルの大樹のそばで甦ったという伝説まであるのですよ」
彼は片眉を上げる。
「流石にそれは、眉唾ものではないだろうか」
リヴィはくすくすと笑った。
「もちろん、皆さんそうおっしゃいますけれど、私は全部が作り話だとは思えません。この木の樹液の効能は確かですから、多少の傷なら治ると思います。そういう伝説も信じてみたいなとも思いますわ」
「貴女が信じるのなら、私も信じよう。大きな怪我をしたら、ここへ来るよ」
「ふふ、その前に、私に診せてくださいませ」
やわらかく笑うリヴィの頬に、レインスの手がそっとのびる。そして、ハッとして彼はその手を戻した。



