リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく


 彼の眉が訝しげにぴくりと上がる。唇が震えるのを感じながら、リヴィは必死で続けた。

「も、申し訳ありませんっ! このお茶はっ……その、ええと、催淫効果のあるものなんです。いつもとは真逆の……っ、ご、ごめんなさい」

 早口で言い切って、頭を深く下げる。彼が軽く息を呑んだのがわかった。

「そ、うだったのか。いや、夜だというのに私が急かして呼びつけたからだ。気に病む必要はない」

 レインスは寝台から立ち上がると、部屋の扉を開け放った。

「むしろ、飲む前に気づいてくれて幸いだった。早く部屋から出た方がいい。あの茶なしではおそらく私の理性はもたない。さあ」
 彼は焦った口調で、リヴィを外へと急かした。
「馬車は……そうか、朝まで迎えは来ないか。それならば、私が外へ出よう。貴女はここに」

 独り言のように言う騎士の表情がこわばっている。瞳がかすかに暗く揺らめいたかと思うとまた元の色に戻る。三十分もしないうちに性衝動は強く出始めるはずだ。だが、彼女は首を横に振った。

「いえ。その必要はありませんわ。レインス様。もうひとつ、方法がありますから」

 リヴィはつ、と彼に一歩近づく。みしりと床が音を立てた。薄暗い部屋のなか、騎士は驚いて後ずさった。

「もう一つ……?そんなことは、今まで聞いたことがないが」
「もちろん、これはとっ、と、特別のものですから。ふだんはあまり公言しません。治癒士の身をもって副作用を鎮める方法なので。でも、一番効果的です」

 彼ははっとして彼女をみつめる。その意味がわかったのだ。

「なにを……。馬鹿な」
「茶葉を間違えたのは、私の責任です。ですから今夜は、こちらの方法で貴方様の治癒を進めていきます……。よろしいですね」

 リヴィはそう言って再び扉を閉め、鍵をかけた。手が震えているのを隠すように、ぎゅっと拳を握り締め深呼吸する。

本当は死ぬほど緊張しているのだ。とんでもなく馬鹿げたことを言っているのもわかっている。

だが、もう彼の魔障は消えてしまうのだ。レインスとのつながりがほしいのなら、今夜しかない。彼女はまた一歩、騎士へ近づく。

「大丈夫です。気になさらないで私を使ってくださいませ。吐き出してしまうのが一番簡単なのは、レインス様が一番お分かりでしょう?」