魔障の後遺症は人によってさまざま症状がある。レインスの場合は性に対する欲が異常に高まってしまうのだ。
瞳は理性を失い、爛々と欲情にぎらつく。持て余した熱が血管を燃やすように身体中を駆け回る。
リヴィの淹れる薬草茶と、それから彼女の穏やかな声かけで、彼は数時間の間耐えるのだ。もちろん、部屋は別だ。
壁越しに二人は寄り添い、リヴィは本を彼に読み聞かせる。レインスが辛いのはもちろんわかっている。だがこの時間は彼女にとって、騎士を独り占めできるこの上ない幸せなひとときでもあった。
レインスの花束を抱きしめ、香りを深く吸い込む。
「でも、あ、ありがとうございます……とても、かわいい」
リヴィの灰色の日常に、色がつく。
「気に入ってくれたなら、光栄だ」
柔らかい笑みに不意に涙が溢れそうになり、彼女は慌ててお茶の準備を始めた。
(でも、もうこれも必要なくなる。魔障が消えれば、レインスさまは治癒士に用はなくなるわ……)
彼と二度と会わなくなる。それはなんと恐ろしいことだろう。これまでは考えないようにしてきたが、彼の魔障が治癒し始めた今、別れはいよいよ現実味を帯びて彼女に忍び寄る。
「あ、あの……レインスさま」
彼女は煮えたつ湯を入れた陶器のポットをことりとテーブルに戻した。レインスはこれからくる衝動に備え、自らを戒めるようにしっかりとリヴィから距離をとって背筋を伸ばして座っている。
「あの……」
「どうされた?」
彼女は意を決して深く息を吸う。そして、彼に向き直った。
「申し訳ありません。私、……あの、薬草茶の種類を間違えてしまったようです」



