「恭平さん、臍を曲げないで。恭平さんはうちの弟たちに似ているから」

「で、舞子さん、その『ロマンス』とやらはどんな話で?」



そうねえ、と上機嫌に舞子は思い出している。




どうやら、金持ちの男と仕事のため上京した貧しい家の女が出会い、お互いの両親に結婚に反対されながらも、最後に結ばれるというのが大筋のストーリーらしい。



「それでね、3度目に二人きりで夜の銀座に行くの。女の子は男に買ってもらった上等な洋服を着て。それは裾がふわっと広がっているスカートで可愛いのよ。でもね、男は似合っているとは言ってくれないから女の子は不安になるのよ。そこで男が言うの。『俺が選んだ上等な服なんだから堂々としてろ』って」



「なんか、その男冷たくないすっか」



「いいえ、最高の褒め言葉じゃない。素敵なレストランでご飯を食べて、そこで二人は手を取り合ってワルツを踊るの」



舞子はうっとりとつぶやきながら、教室の後方で「こんな感じかしら」と踊り始める。