取りそこねた万年筆がカランッと音を立てて床に落ちる。
その衝撃で、万年筆の端っこがすこし欠けてしまった。

「あ~あ、絵美お姉ちゃんがトロイからだよ?」
愕然とする絵美の前で花子は笑う。

それでもそんな声は全然聞こえてきていなかった。
大切な万年筆が壊れてしまった。

その事実だけが大きな衝撃となって絵美の心の貫いた。
「その万年筆にももう用事はないから。返してあげる」

絵美は壊れた万年筆を握りしめると、グッと下唇を噛み締めて花子を睨みつけた。
力を込めていないと泣き出してしまいそうだったから。

花子は一瞬怯んだ様子を見せたけれど、すぐにいつもの嫌な笑顔に戻っていった。
この子にはきっとなにを言っても通用しないんだろう。

人の気持ちなんて少しも考えてないんだから!!
絵美は万年筆を握りしめたまま、家から飛び出したのだった。