「やっと帰ってきたの?」
ノックせず、嫌味を言いながらドアを開ける。

花子は丁度着替えをしようとしていたところのようで、驚いた顔を向けてきた。
けれど相手が絵美だとわかった途端嫌味を含んだ笑顔を浮かべた。

「絵美お姉ちゃんのお陰で健太お兄ちゃんと仲良くブレスレッドを作り直すことができたよ」
そう言うと花子は腕にはめたオレンジ色のブレスレッドを見せてきた。

真新しい紐に通されたそれはキラキラと輝いているように見えて、嫉妬心が湧いてくる。
だけどここで声を荒らげれば、また花子の思い通りになってしまう。

「あっそ。それはよかったね」
興味のないふりをしてそう言うと花子の表情が険しくなった。

「本当は悔しいくせに。大好きな健太お兄ちゃんを私に取られそうで焦ってるんでしょう?」
「健太お兄ちゃんはものじゃないから、取られたりなんかしない」

「強がっちゃって。あ、それとも絵美お姉ちゃんの本命はこっちだから?」
花子はそう言うと机の引き出しから万年筆を取り出したのだ。

「それ、やっぱりあんあたが……!」
両手を伸ばして奪い取ろうとしたとき、花子が万年筆を投げて手渡してきた。