ハッとした。
 大地が泣いて悲しんでる顔を私は初めて見たから。

 私の抱《いだ》く大地の印象は明るい笑顔の男の子なの。

「斉藤君、泣いてるの?」

 私が話しかけると大地は服の袖でゴシゴシ顔を拭いた。

「見ないで。佐藤には弱い俺は見られたくない」

 私の胸はズキッと痛む。

「私は斉藤君の悲しい気持ち聞いてあげたい」

 大地はじっと私の顔を見た。

「なんで佐藤が泣くの?」
「えっ?」

 私はいつの間にか涙を流していた。

 私は大地が私を遠ざけた気がして寂しくなった。

 なにより大地が泣いてることが悲しかった。

「ごめん。佐藤にだけ話すよ。俺の父ちゃん出てったんだ。そしたらさっき新しい父親が来た」

「えっ? 本当のお父さんはお家を出てっちゃったの?」

 私はびっくりしていた。

「そうっ! もう父ちゃんはいないんだ」

 大地は滑り台をランドセルを擦りながら滑っていった。

 滑り台に取り残された私を大地は振り仰いで無理した顔で笑った。

「佐藤も降りてこいよ」
「うん」

「佐藤っ! 俺ね」
「うん」
「父ちゃんも新しい父親も大っ嫌いだっ!」

 私は滑り台を降りて大地に駆け寄り抱きしめた。

 抱きしめてあげなくちゃ大地が消えちゃう気がしたんだ。