「えっ、あ、だい、大丈夫ですけど。」

 盛大に噛んでしまった。そんなことを言われるとは思っていなかった。

「あ、でもそうしたら閉店後になっちゃって、綾乃さん、帰るのが遅くなっちゃいますね…。あ、店が休みの日だったらいつでも大丈夫なんですけど…。」
「定休日にうかがってもいいなら私は大丈夫ですよ。」
「本当ですか?」
「えっと、定休日って火曜日で合ってます?」
「はい。」
「じゃあ、次の火曜日、仕事後になるので正確な時間が約束できないんですけど…7時くらいには絶対、確実に来れると思います。」
「僕、火曜日はここで課題やってることが多いので、のんびり待ってますね。」

 課題と言われて思い出す。彼は大学生になったばっかりだった。

「そ、そうでしたね。うっかりすると忘れちゃうんですけど、大学生でしたね。」
「あ、あんまりそう見えないですか?もっと子供っぽいです?」
「いえ、あの、落ち着いてらっしゃるので…そういえば大学生だったなと。」
「僕の場合、ぼーっとしてるだけですよ。」
「ぼーっとしてるんですね。」

 健人のふわっとした笑みにつられて、綾乃も笑ってしまう。ぼーっとしている人があんなに手際よく料理ができるとは思えないが、本人がそう言うならそういうことにしておこうと思う。
 のんびりとした食事を終え、時計を見ると12時をこえていた。

「のんびりしすぎました!長居しすぎちゃってすみません!お皿洗いとか片付け、手伝います!」
「いえいえ。それよりも、綾乃さんが嫌じゃなければなんですけど…お家まで送らせてもらってもいいですか?お家までじゃなくても、あの、綾乃さんの都合の良いところまででいいので。一人じゃ危ないので…。」

 どんどん言葉が小さくなる姿がなんだか微笑ましくて、綾乃は小さく吹き出した。