「久しぶりだな。リリシア」

 ベルリーニ家の書斎で、リリシアの養父は娘に挨拶した。

「お久しぶりです。お義父様……お元気でしたでしょうか」
「もちろん元気だ。お前に心配されることもない……だが、娘よ」

 伯爵はリリシアの隣に立つセヴィリスをちらりと見た。

「前もっての知らせもなく、突然の我が館への訪問とは、少々不躾だとは思わんか。よりによってこんな忙しい日に」

 彼は不満げに腕を組む。何かの書類を見ていた途中なのか、立派な作りの書斎机には羊皮紙が何枚も重ねられている。

「お、お仕事中、ご、め……」

 変わらぬ威圧的な態度に、一瞬で少女の頃の感覚に戻ってしまう。咄嗟にごめんなさいが口から出そうになったとき、セヴィリスがリリシアの手をぎゅっと握りしめた。

「ご無沙汰しておりました。義父上。突然となり誠に申し訳ありません。これまでにも何度かご挨拶に伺いたい旨をお手紙でお伝えしておりましたが、お返事を頂けず困っておりました。手紙が届いていないのではと妻が心配しまして、一度ご様子伺いにきた次第です」

 セヴィリスは笑みを浮かべながら、一歩前に出て会釈した。