「……?」

 なにか、違和感を覚えた。慌ててコルセットの隙間からペンダントを取り出す。見ると、嵌め込んである金の石に所々黒いシミができていた。

(なにかしら、これは……)

 幼い頃からつけているので肌と同じように感じていたペンダントの変化に、リリシアはざわざわとした気持ちになった。

(セヴィリス様に、お伝えした方がいいのかしら)
 けれども魔印と関係があるとは思えない。これは父からの贈り物、ただの綺麗な石なのだ。

(と、とにかく。今はお義父様のところへ行かなくちゃ)

 彼女がペンダントを再びしまい込んだとき、やけに近くで馬の蹄が響いた。

 馬の乗り手は馬車と並走する気らしい。リリシアは訝しげに小窓から覗いた。

「え……、せ、セヴィリスさま?」

 馬で駆けていたのは、夫のセヴィリスだった。
「一人でどこへ行くつもり?」

彼は大きな声で馬車のなかのリリシアに呼びかける。


「え、ちょ、ちょっと……あの、何をなさっていらっしゃるの?」

 窓越しにリリシアは大きな声を出した。

「それは、私の質問だよ!ともかく、馬車を止めてくれないかな」

 なんと、セヴィリスは彼女を追いかけてきたのだ。彼女が馬車から降りると、リリシアは半ば強引に馬のほうに乗せられてしまった。
「あの……」
「私はすごく、怒っているよ。リリシア殿。貴女は時に突拍子もないことをするね」