「セヴィリス様、少しの間シノに周りを案内してもらってはいかがですか。珍しい「物」があるかも知れません」

 いきなり沈黙を破り、リリシアはにっこり笑ってセヴィリスを見た。

「いきなり、どうしたのかな?」
「シノはすこし興奮しているようですから、外の空気を吸った方がいいかも。私は少し、院長とお話ししますので」

 彼は少しの間黙って妻を見ていたが、やがて頷いた。

「わかった。では案内を頼むよ。シノ。聖騎士として、君のその後の様子も見せてほしいからね」

 セヴィリスはシノの肩を優しくたたき、外へと連れ出した。リリシアは彼らの後ろ姿を見送る。院長が穏やかな声をかけた。

「お幸せそうですね。リリシア様」
「……とてもとても、大切にしていただいています」
「いきなりご結婚となった時にはとても驚きましたが、デインハルト卿はシノの命の恩人でもあります。もちろんあなたも。私はどこへ行こうと、あなた方の幸せをお祈りしております」
「院長様……」

「できれば子どもたちと過ごしたかったが、もう難しいのでしょうな……これも、神のお導きなのか。ともかく、早く落ち着き先を決めてやることだけが私に残された使命です」

 諦めにも似た微笑みに、リリシアのなかで沸々とした感情が湧き上がる。

「……私、大切な用を思い出しました。また後ほど、戻りますので夫にはここで待つよう伝えてください」

「え、ええ。それは構いませんが、どちらへ……?」

 彼女の真剣さに驚いたように院長は尋ねたが、リリシアはもう出口へと向かっていた。門の外へ駆け出し、待っている馬車に素早く乗り込む。

「お父様の……ベルリーニの屋敷へ、お願いします。なるべく急いでくださいませ」