院長は目を伏せる。

「シノから聞きましたでしょう。この修道院は近いうちに取り壊されることが決まっておるのです」
「院長様。それは、なぜ?ここはベルリーニの……伯爵家の領地でしょう? 新しく建て直すとか、そういうことなのですか?」

 彼は悲しげに首を横に振る。

「お嬢様……いえ、奥方様。残念ながらそうでなありません。長年我々は地代を払い施設を運営してまいりました。牧草地からの収入でなんとかやりくりしていたのですが、この度地代の値上げを言い渡されました」

「まぁ……」
「すこしなら仕方ありません。従うつもりでおりましたが、なんと、以前の二十倍もの高値を申し渡されたのです」

 セヴィリスが真面目な顔になった。

「それは、この土地を手放せと言っているのと同じですね」
 院長は俯いて頷いた。
「伯爵家の使いの方から、払えなければ土地はこれ以上貸せないので、即刻退去するようにと言われました」

 院長たちはなす術もないまま、僅かばかりの支度金を渡されて、皆の受け入れ先や行き先を必死に探しているところだという。
「数人の子達が決まらず立ち退きを先延ばしにしていましたら、あちらの護衛の方々が寮を取り壊しに来たのです」
「……そんなことになっていたのですか?」
 リリシアは驚いて言葉も出ない。
「そうなんです!院長様は、その時に揉み合いになって、怪我されてしまったんです!僕たちのせいで」
 シノがいきなり飛び込んできた。話を聞いていたらしい。
「こら、シノ。大人の話に入ってくるんじゃないよ」
「僕はもう大人だし、働けます。でもどこも住み込みで雇ってくれない。十五にあと一年足りないから。養子が決まった子たちだって、望んだわけじゃない。みんなみんな院長先生と一緒にいたいのに、ここが家族の家なのに…!」
 彼は悔しさを滲ませている。狭い部屋に彼の啜り泣きが響く。リリシアは知らず、拳を握りしめていた。
(こんなの、許せない……)