「身分の高い方はふつう、そういうことは隠すものです。悲しいことですが。ですがあなたは違う。こうして我々や子供達をいつも気遣ってくださる」
「いえ、そんな。私にとってはとても心安らぐ時間ですので、こうして歓迎してくださるのがとても嬉しいのです」

 リリシアは外で遊ぶ子供達を優しい目で見つめる。院長は、清い心の持ち主である彼女が伯爵家で不憫な扱いを受けていることを思い、胸が痛くなった。

「そういえば、シノたちの姿が見えませんね。お使いですか」

 外を見ていたリリシアはふと気づいた。一番年嵩の少年二人の姿が見えない。

「ええ、村の仕事を請け負いましてね。朝から森小屋の修理に行っているのですが、なかなか帰らなくて」
「まぁ……今の時期はすぐに日が落ちてしまいますよね」
「そうなんです。行き慣れた場所ですが少し心配なんですよ。もう大人だなんて言っていますが、まだシノは十三ですから……」

 院長は苦笑いしているが心配そうだ。リリシアは身を乗り出した。

「私、迎えに行きます。馬車ならそうかかりませんし、小屋に行って、シノたちを乗せて戻ってきますわ」
「そんなっ。結構です。そのうち帰ってくるでしょう。そこまでお世話になるわけにはいきません」

 その時、遠くで雷の低い轟きが聞こえてきた。二人は顔を見合わせる。

「やっぱり、心配ですわ。雨に降られたら大変ですもの。行かせてくださいませ」

 そう言うなり彼女はもう外に向かって歩き出していた。