院長は前回と同じく、清潔だが、端のほつれた白の長衣を纏いデインハルト夫妻を迎えた。杖をつき恭しく頭を下げる院長は、この数ヶ月でかなり老け込んだように見える。彼はシノを下がらせてから、改めて挨拶した。

「このような姿で申し訳ありません。杖を持つことをお許しください」

「院長様!お怪我をなされたとか……大変でしたね」

 リリシアが労わるように声をかけると、彼は嬉しそうに眉を下げた。

「いえいえ、このくらい平気ですよ。しばらくすれば治ります。それよりも遠路はるばるよく来てくださった。奥方様。ご挨拶にも伺えず本当に申し訳ありませぬ。
 ……ご結婚、誠におめでとうございます」

 院長は優雅にお辞儀をした。

「あ、ありがとうございます……」

「少女の頃から、年に数回は訪れてくださり子ども達を可愛がってくださったあのご令嬢が、ご結婚とは……なんとも感慨深いです」

 初老の院長は満面の笑みを浮かべている。まるで父親のようなその表情に、リリシアはなんだか胸が詰まった。

「会えなくなるのは寂しいですが、お幸せそうで、本当に喜ばしいことです」

 リリシアは一瞬言葉に詰まってしまい『夫』をチラリと見てから、曖昧に微笑みかえした。セヴィリスも小さく頷くだけだ。彼は婚姻の理由までは知らないようだった。

「院長、お久しぶりです。妻がここへの訪問を楽しみにしておりまして、望みを叶えられてよかった。……ですが、すこしお尋ねしたいのだが」
「ええ。なんなりと」
「子ども達の住居が、取り壊されているのを見たのだが、あれはどういうことなのだろう」