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「これは……」

 鉄門が開かれ、馬車が修道院の敷地へと入る。
 待ちきれない様子で馬車から降りたリリシアは言葉を失った。

 レイフィルの修道院には聖堂と寮、主に二つの施設がある。身寄りのない子供達を寮で育てているのだが、その建物が崩れてしまっていたのだ。

「な、に……どう、したの?なにがあったの」
 もともと石と土造りの粗末な建物であったが、今は見る影もない。壁は壊れ中の椅子や小さな寝台が剥き出しになっている。

 正面の聖堂には変化はなくて、暴風などによる自然災害でないことは明らかだ。何者かの手によって、故意に壊されている。不吉な予感で胸がざわざわする。リリシアは一歩、また一歩と近づいていった。

「あまり近くにいくと危ない。リリシア殿」

 夫が彼女の肩に触れてそっと制した。
「でも……」

 リリシアが振り返った時、数人の子供たちが聖堂から駆け出してくるのが見えた。
「お嬢様だ!お嬢様だ!!」
「リリシアさま!リリシアお姉ちゃん」

 あっという間に二人は子どもたちに囲まれる。
「ああ! あなたたち!よかった。元気だった?」
 リリシアは心からホッとした声になり、子供たちを見まわす。皆笑顔で元気そうだが、人数がだいぶ減っているように感じた。数人の女の子がセヴィリスのことをぽうっと見上げている。

「き、きれいなおかお……妖精のおうじさまみたい」
「リリシアさまも、とってもかわいい……前より、すっごくきれい」
「あんまり見たらしつれいなのよ!シノ兄さんが言ってた!」

 好奇心いっぱいの顔はみなすこしも変わっていない。そこへ、少年が駆けてきた。

「リリシア様!」
 シノだった。前に会った時よりも少し背が伸び、体つきも逞しくなった気がする。

「シノ!元気だった? あなたたちのことが気になって、会いにきたの」

 リリシアは思わず手を伸ばし、少年を抱きしめた。ところがシノは慌てて飛びのく。
「い、いけません!そんなことなさったら」
 彼は耳を真っ赤にして叫んだ。

「お嬢さまは、お、奥方様になったと聞きました。だから……」