彼は頷く。

「もちろん、ここに来て三月ほど経つからこの館に馴染んできたせいもあるかもしれない。だが、それにしても」

 あまりにも症状が軽いのだという。リリシアは寝着のリボンに手をかけた。

「よろしければ、他のところも見られますか?もしかしたら、別の症状が……」
「え」
「ですから、脱いで」

 これまでの魔印の手当ての時、リリシアは左肩をあらわにしているだけだった。彼女の肌は首までぴっちりと覆われている。聖騎士としてのセヴィリスに全幅の信頼を置いているリリシアは、だから何の不安もなく首元のボタンを外そうと指をかけた。

「だ、だめだ!」

 夫は小さく叫んだ。

「そ、そこまでしなくて大丈夫。顔色を見れば貴女が良い状態で、魔印が悪さをしていないのはよくわかるからっ…」
 彼はくるりと背を向けた。
「ご、ごめ……んなさい。はしたないことを……」

 リリシアはそろそろと手を下ろす。意外な反応に、こちらまで恥ずかしくなってしまったのだ。
「いや、はしたなくなんてない! ただ、その……」

 セヴィリスは珍しくもごもごと何やら言葉を濁している。やがて、大きく息を吸うとこういった。

「ともかく、今夜はいつもと同じ手当てをしよう。それと、ここまで魔印が落ち着いているので、以前言っていた貴女の一番の望みを叶えられると思う」

 リリシアははっと顔を上げた。夫は笑顔で頷いている。
「修道院へ行こう。貴女さえ良ければ、明日にでも」
「あ、ありがとうございます!」

 彼女は嬉しさに瞳を大きく潤ませ、セヴィリスに感謝した。

 そして次の日、彼らの馬車はベルリーニ領へと出発した。