「たとえばほら、この赤い石。これは遥か北の山地で見つけた」

 彼が見せてきたのは血と間違うような赤い石に、何本も白い線が入ったものだ。

「この石は紅石というんだけれど、別名『ドラゴンの爪痕』と呼ばれている」

「ドラゴンですか?」
「そう、古の時代、世界各地に巨大なドラゴンがいたとされる。今でも彼らが争った跡が各地に見られるんだ。この石も大きな竜が巨大な岩を引っ掻いたときにできたという逸話があるんだよ」
「まぁ……、そのようなお話があるのですね。ドラゴンの伝説……知りませんでした」

 セヴィリスが手のひらに乗せてくれた赤い石は小さくてもずっしりとした重みがある。

「人間の時代よりもずっと昔だからね。我々聖騎士は、幼い頃から古代の伝承なども学んできたから馴染みがあるんだよ。まぁ、そうでなくとも、()は小さな頃からこういう変わった石を集めるのが好きだったんだ」

 彼の瞳は館にいるときの生真面目な表情ではなく、キラキラと輝いている。頬が紅潮して、まるで少年のようだ。あまりの美麗ぶりにリリシアは思わず目を伏せてしまう。でも、楽しそうな彼の姿はとても好感の持てるものだった。

「貴女はその、あまり興味はないだろうけど。何度か私の居場所をアンドルに尋ねていたそうだから」

 彼は、わざわざリリシアの疑問に答えるためにここに案内してくれたのだ。

「こんな趣味は変わっているとみんなが思っているのは知っているから、打ち明けるのは少し恥ずかしかったんだ。お茶会や夜会に招かれても庭園の石ばかり見ているのだからね。あまりに気になるときは、庭師と話し込んだり、土を掘り返してしまったこともある」

 夫の美しく整った顔が困った表情になる。リリシアは深く深く息を吸い、微笑んだ。

「そんな! ここは、とても楽しいです。知らないことばかりで……それに、とても綺麗。教えてくださって私、とても嬉しいです!」