ただ?
 セヴィリスはこほんと咳払いした。リリシアは首を傾げて、夫の言葉を待つ。
「叔父上のことは心の底から尊敬しているが、その、ちょっと、あの方は女性好きで……、独身なのをいいことにそういう噂が絶えない。さっきのは……なんだか心配になってしまったんだ」
 彼はそっぽを向いてぼそぼそと言った。耳がふわりと朱に染まっている。

「わ、わわたしは、っそのようなこと、心配なさらなくて大丈夫ですわ…!」

(な、何言ってるのかしら、私って……)

 彼の素直な言葉をどう受け取っていいのかわからなくて、リリシアは早口でそう答えると胸にぎゅっと手を当てた。
 向こうを向いたままのセヴィリスが小さく、うん、と頷いたように見えた。
 しばらく二人は無言で歩く。
 すると、目の前に小ぶりの建物が見えてきた。屋根の部分にもガラス窓が並んだ、温室のような造りの小屋だった。陽を受けてきらきらと輝いている。

「さあ、ここが()の隠れ家だよ」

 セヴィリスが弾んだ声を出した。